1. さて、人々はモアブの平原に移り、ヨルダン川の東側、ちょうどエリコの町の反対側あたりに野営しました。
2-3. ツィポルの息子でモアブの王バラクは、イスラエル人の数があまりにも多く、エモリ人がひどい目に会ったことを知ると、恐ろしくなりました。 国民もこわがっています。
4. ぐずぐずしてはいられません。 すぐ、近隣のミデヤン人の指導者たちに相談しました。「いったいどうしたらいいんだ。 あの暴徒どもは、まるで牛が草を食い尽くすみたいに、回りの者を全滅させる。 このままじゃ絶対に助からん。」
5-6. 相談の結果、ベオルの息子バラムを呼び寄せることになりました。 彼は、ユーフラテス川に近い、王の故郷ペトルに住んでいます。 「バラムが来ればなんとかなる。」 そう望みをかけて、王は使いをやりました。使いの者は王のことづてを伝えました。 「イスラエル人とかいう暴徒どもが、エジプトからやって来て、国中が大騒ぎだ。 なにしろ連中は、まるで世界中を征服しそうな勢いだから、手のつけようがない。 それが、今にもわが国に攻め込んで来そうなのだ。 すぐ、連中をのろいに来てもらえないだろうか。 そうすれば、難なくやつらを追い出せる。 やつらは強すぎて、このままではとてもかなわない。 おまえが祝福する者は祝福され、おまえがのろう者は必ず破滅するということだから、ぜひ頼みを聞いてくれないか。」
7. 使いの一行は、モアブとミデヤンの最高指導者でした。 彼らは金を持って行き、大急ぎで用件を伝えました。
8. 「今夜はここにお泊まりください。 あすの朝、神様がお示しになったことをお伝えしましょう」とバラムが言うので、一行はそうすることにしました。
9. その晩、神様はバラムに現われ、「この者たちはいったい何者だ」とお尋ねになりました。
10. 「モアブの王バラクの使いの者でございます。
11. 暴徒どもがエジプトから来て、国境に迫っているから、すぐ連中をのろいに来てくれ、というのです。 戦いに勝ちたがっているのです。」
12. 「行ってはならない。 頼みを聞いてのろってはいけない。 わたしは彼らを祝福しているのだ。」
13. 翌朝、バラムは言いました。 「申しわけありませんが、お帰りください。 神様は行ってはいけないと言われました。」
14. 使いの者たちは、すごすご王のもとへ戻り、断わられたことを伝えました。
15. しかし、王はあきらめません。 もう一度、より位の高い者たちを、前よりも大ぜい送りました。
16-17. 一行が持って行った親書には、こうありました。「ぜひともおいでください。 おいでいただければ、手厚くおもてなしし、お望みのものは何でも差し上げましょう。 どうか、イスラエル人どもをのろいに来てください。」
18. バラムはなかなか承知しません。 「たとい、金銀で飾り立てた宮殿を下さると言われても、神様の命令には逆らえません。
19. しかしまあ、この前とは別のお告げがあるかもしれませんから、今夜はここにお泊まりください。」
20. その夜、神様はバラムに命じました。 「彼らといっしょに行ってもよい。 だがいいか、わたしが命じることだけをするのだ。」
21. 翌朝、バラムはろばに鞍をつけ、モアブの指導者たちと出かけました。
22-23. ところが、バラムが神様の命じられたとおりにしなかったので、神様は腹を立て、途中で殺してしまおうと御使いを送ったのです。 そうとは知らないバラムは、供の者二人と先を急いでいました。 と、突然、バラムのろばの前に、抜き身の剣を下げた神様の使いが、立ちはだかったではありませんか。 驚いたろばは急に駆けだし、道ばたの畑に入り込んでしまいました。 バラムはわけがわかりません。 あわてて鞭をあて、道に戻しました。
24. 神様の使いは、今度はぶどう園の石垣の間の道に立っていました。
25. その姿を見るなり、ろばは身をもがき、体をぎゅっと石垣に押しつけたので、バラムは足をはさまれてしまいました。 おこったバラムは、また鞭をあてました。
26. すると、神様の使いは先に行って、道幅の狭い所に立ちふさがりました。 これでは、どうにも通りようがありません。
27. ろばは道にうずくまってしまいました。 バラムはとうとう頭にきて、ろばをひっぱたきました。
28. このとき急に、ろばが口をききました。 神様がそうなさったのです。 「どうして三度もぶつんですか。」
29. 「おれをばかにしたからだ。 剣があれば、切り殺してやるところだ。」
30. 「でも、これまでに、私が一度でもこんなことをしたでしょうか。」「いや、ない。」
31. その時バラムの心の目が開き、剣を抜いて行く手に立ちはだかっている神様の使いが見えました。 バラムはびっくりして、その方の前にひれ伏しました。
32. 「なぜ、ろばを三度もぶったのか。 おまえが破滅の道を進んでいるので、止めに来てやったのだ。
33. ろばはわたしを見て、三度ともしりごみした。 そうでもしなかったら、今ごろは、ろばは助かっても、おまえの命はなかったのだぞ。」
34. 「私がまちがっておりました。 お赦しください。 神様のお使いがおいでになろうとは、気がつきませんでした。 これ以上進むなと申されるなら、引き返します。」
35. 「いや、このまま行け。 ただし、わたしが命じることだけを言うのだ。」バラムは一行と旅を続けました。
36. バラク王は、バラムが途中まで来ていると聞いて待ちきれず、わざわざ国境のアルノン川まで迎えに出ました。
37. 「なぜ、こんなに遅くなったのかね。 絶対に悪いようにはしないと約束したのに、信じてくれなかったのか。」
38. 「王様、おおせに従い、参るにはまいりましたが、残念ながら、神様が命じることしか言えません。 申し上げることはそれだけです。」
39. バラムは、王といっしょにキルヤテ・フツォテに行きました。
40. 王はそこで、牛と羊をいけにえとしてささげ、バラムや使いの者たちにも、いけにえ用の動物を与えました。
41. 翌朝、王はバラムをバモテ・バアル山の頂上に連れて行きました。 そこから見下ろすと、大ぜいのイスラエル人が集まっているのが見えます。