1-5. この書は、モーセがヨルダン川の東、モアブ平原のアラバ渓谷で演説した時の記録です。 当時、イスラエルの人々はそこに野営していたのですが、付近には、スフ、パラン、トフェル、ラバン、ハツェロテ、ディ・ザハブなどの町がありました。 この演説が行なわれたのは、ホレブ山(シナイ山)を出発してから四十年目の二月十五日でした。 ところで、ホレブ山のふもとからカデシュ・バルネア〔約束の地パレスチナの南端〕までは、セイル山を通れば、普通なら歩いても十一日ほどで来られます。 それはさておき、この時にはすでに、ヘシュボンでエモリ人の王シホンを、エデレイに近いアシュタロテでバシャンの王オグを打ち破ったあとでした。 ここへたどり着くまでの間、神様はいろいろな法律をモーセをとおして伝えましたが、それを全部まとめて、もう一度、モーセが説明しなおしたのです。
6. 「皆さん、今からちょうど四十年前、神様がホレブ山でこう言われたのを覚えていますか。 『もうこれ以上、ここにいる必要はない。
7. 出発しなさい。 エモリ人の山地、アラバ渓谷、ネゲブ、カナンとレバノンの全土、つまり地中海からユーフラテス川までの全地域を占領するのだ。
8. わたしが与えると言うのだから遠慮はいらない。 どんどん入って行きなさい。 そこが、昔おまえたちの先祖アブラハム、イサク、ヤコブおよびその子孫に、いつか必ず与えると約束した国だからだ。』
9. あの時、私は皆さんにこう訴えました。 『私一人じゃ、これから先、とても全員のめんどうを見きれない。 どうしても助手がいる。
10. 神様があなたがたを、星の数ほどにふやしてくださったからだ。
11. それどころか、お約束どおり今の千倍にもしてくださるそうだ。
12. こんなに大ぜいじゃ、もめ事や問題もたくさん起こる。 とても一人ではさばけない。
13. そこでお願いだが、各部族から、人生経験が豊かで知恵もあり、もの事のよくわかる者を選んでくれないか。 その者たちを指導者に任命しよう。』
14. みんなが賛成してくれたので、
15. 私は彼らを助手に任命しました。 いちばん上を千人の者を指導する長とし、その下にそれぞれ百人、五十人、十人の者の世話をする長を置いたのです。 彼らはめいめい、自分の管理のもとにある人々のもめ事を解決したり、いろいろ必要な世話をしたりすることになりました。
16. 当然ですが、いつでも、だれに対しても、たとい外国人でも、決して差別をせず、あくまで正しく振る舞うように言っておきました。
17. 『決定を下す時、金持ちの肩をもってはいけない。 身分の高い者も低い者も同じように正しく扱いなさい。 神様の代わりにさばくのだから、人の不平不満を恐れることはない。 手に負えない事件は、私のところに持って来れば処理してやろう。』
18. あの時には、ほかにもいろいろ指図しました。
19-21. それからホレブ山を発って、恐ろしく果てしもない荒野を旅し、神様のお守りのもとにエモリ人の山地に着きました。 そしてついに、約束の国との境にあるカデシュ・バルネアまで行ったのです。 あそこで私は、『神様がこの国を下さったのだから、ご命令どおり前進して占領しなさい。 恐れたり疑ったりしてはいけない』と告げました。
22. これに対してみんなは、『まずスパイを送り込もう。 いちばん攻めやすい町から占領したほうがいい』と提案したのです。
23. もっともなので、各部族から一名ずつ、全部で十二名のスパイを選びました。
24-25. 彼らは山地に潜入し、エシュコルの谷まで行くと、その地のくだものを持ち帰りました。 それを見て、神様の下さった地が実に良い地であることが、はっきりわかりました。
26. ところが、みんなは神様の命令に逆らい、前進したくないと言いだしたのです。
27. そして、テントの中でぶつぶつ不平を言いました。 『神様はきっと、私たちがおきらいなんだ。 だから、わざわざエジプトから連れ出し、エモリ人の手にかけて殺そうとしておられるんだ。
28. どうしよう。 スパイの報告じゃ、やつらは背が高く、力もあり、町の城壁はおっそろしく高いっていうじゃないか。 おまけに、アナク人の子孫の巨人を見たとも言ってた。 考えただけでもぞっとする。』
29. そこで私は反論しました。 『恐れることはない。
30. 神様が先頭に立って戦ってくださる。 エジプトでは力強い奇蹟を行ない、
31. そのあともずっと、まるで父親のように気を配り、荒野の旅を安全に守ってくださったことを忘れたのか。』
32-33. しかし、何を言ってもむだでした。それまでいつも共にいて、野営するのに最適の場所を選び、夜は火の柱、昼は雲の柱で、進む道を教えてくださった神様を、彼らは信じようとしなかったのです。
34-35. これには神様も腹を立てました。 おかげで、当時おとなだった者は一人も約束の国へ入れなくなりました。
36. ただ、エフネの息子カレブは別です。 神様の命令に完全に従い通したほうびに、自らスパイとして潜入した地の一部を、相続地としてもらえるのです。
37. 不信仰な者たちのために、私でさえ神様の怒りを買い、こう言い渡されました。 『おまえは約束の国へ入れない。
38. 代わりに、おまえの助手ヌンの息子ヨシュアが指導者となるのだ。 その準備ができるように励ましてやりなさい。
39. 国は、荒野で死ぬ者の子供たちに与えよう。
40. 決して、おまえたちのものにはならない。 だから、回れ右をして荒野の道を紅海の方へ戻りなさい。』
41. すると今度は、あわてて罪を告白しだしたのです。 『お赦しください。 私たちが悪かったのです。 ご命令どおり、その国に攻め入ります。』 そう言うと、簡単に全地を征服できるとでも思ったのでしょうか、あたふたと武装し始めました。
42. それでも神様は、きっぱり言われました。 『やめさせなさい。 わたしがいっしょに行かないのにむちゃをしたら、ひどい目に会うだけだ。』
43. その警告を聞き入れず、彼らはまたもや神様の命令に背いて、山地に攻め上ったのです。
44. 案の定、結果はさんざんでした。 エモリ人の迎え撃ちに会い、あべこべにセイルからホルマのあたりまで激しく追撃されたのです。
45. 逃げのびた者たちは神様に泣きつきましたが、お聞き入れにはなりません。
46. しかたなく、長いことカデシュにとどまりました。