1. ある日、レアの娘ディナは、近所の娘たちのところへ遊びに出かけました。
2. ところが、ヒビ人の部族長ハモルの息子シェケムは、ひと目見て彼女が好きになり、むりやり自分のものにしてしまいました。
3. 恋心は募る一方です。 なんとか彼女の愛を得ようと、手を尽くすのでした。
4. まず父親に頼みました。 「あの娘といっしょになりたいんだ。結婚できるように話をまとめてください。」
5. 事のいきさつはヤコブの耳にも入りましたが、その時、息子たちはみな群れの番をしに出かけていました。 ヤコブは、彼らが戻るまで、そのままにしておくことにしました。
6-7. ところが、シェケムの父ハモルのほうから、わざわざ出向いて来たのです。 ちょうどそこへ、ヤコブの息子たちも戻って来ました。 彼らは話を聞いて、びっくりするやら、腹が立つやらで、どうにも気持ちがおさまりません。もちろん黙って見のがすわけにはいきません。 こうなったら、妹ひとりの問題ではなく、家族全体に対する辱しめだといきり立ちました。
8. ハモルの申し出はこうです。 「今度のことは、いいかげんな気持ちからじゃありません。 息子はほんとうにお宅の娘さんが好きなのですよ。 妻にいただきたいと心から願っております。 いかがなものでしょう。 二人の結婚をお許し願えないでしょうか。
9-10. 皆さんが私どもの土地に住み、お近づきになってくださったら幸いです。娘さんを嫁にいただければ、私どもの娘もお宅の若い人たちに差し上げましょう。 どこでもお好きな所に住んでください。 商売をなさってもけっこうです。 きっともうかりますよ。」
11-12. シェケムも、愛するディナの父親と兄弟たちに頼みました。「お願いです。 どうぞディナさんをぼくに下さい。 お望みのものは何でも差し上げます。 贈り物でもお金でも。 ですから、どうぞ結婚させてください。」
13. 兄たちは、シェケムとハモルをだます計画を考えました。 シェケムが妹にひどい仕打ちをした仕返しをしようというのです。
14. 「ちょっと待ってくださいよ。 それはできない相談だな。 あなたたちは割礼(男子が生まれて八日目にその生殖器の包皮を切り取る儀式)を受けていないからね、そういう人と妹を結婚させるのは一家の恥ですよ。
15. もっとも、あなたたちが一人残らず割礼を受けるというなら、話は別ですがね。
16. そうすれば、われわれもあなたたちの部族から嫁をもらうし、お互い親戚同士になれるというわけです。
17. いやなら、しかたありません。 妹を連れてここから出て行きましょう。」